引用元: ・今までにあった修羅場を語れ 47話目
30年以上昔の田舎で起きた出来事。
先に言ってしまうと、その赤ちゃんが私。
私の地元では「土地」や「畑」の単位はすべて「山」。
うちは農家で代々秋田犬を多頭飼いしていて、犬用に山の一角をフェンスで囲って運動場を作ってある。当時は老犬一頭含む四頭いた。
元は雑木林と果樹畑だったところを潰したもので、都会のドックランと違って急斜面と凸凹な天然アスレチック仕様。人間が農業に励む間、犬たちはそこで走り回ったり、穴を掘ったりして自由に過ごしている。
うちの犬は家族に対しては忠実(絶対守るマン)だけど、猪と喧嘩しても勝つようなコたちだから脱走させないよう日頃から対策しているし、逃げないよう犬の躾もしてある。老犬は当時12才。家のなかの階段で「上まで連れて行け」と家族を見上げるようになっていた。運動場で走り回る元気はなかったから、畑の周辺を五分くらいゆっくり散歩させるのが常だった。
いつも軽トラに祖父と父と若い三頭、老犬と祖母、母がワゴンに乗る。
その日は老人ホームで暮らす曾祖母が一時帰宅してきて、当時6才だった兄も一緒だった。
車で山に向かう途中、曾祖母の膝に乗ってまったりしていた老犬がいきなり吠えはじめ、元ボスが吠えたことにつられたのか軽トラの荷台につながれた三頭まで吠えはじめたそうだ。今まで見たこともないほど興奮して手がつけられない状態になったらしい。
犬たちは暴れたわけではなく、何かを必死に訴えていたそうだ。
慌てて車二台を停車させて、犬を落ち着けようとした人間を振り切って、老犬が脱走。一目散に走って行った。父と祖父が青くなって追いかけたけど、老犬とは思えない速度であっという間に雑木林に消えて行った。残された三頭も興奮したままで、家族は「あいつ走れたのか」と呆然としていた。
短くまとめるのって難しいね。
それでも秋田犬が万が一にも他人に噛みついたら大変なことになるんで、とにかく家まで引き返して警察に通報しようと相談していたら老犬が戻ってきた。老犬は口に汚いビニール袋を銜えてきて、なかを見たらへその緒がついたままの赤ちゃんが入っていた。息してなかったって。
ビニール袋を老犬から受け取った父は「ににいにんんげん」みたいな悲鳴をあげて腰を抜かしたらしい。祖父が軽トラで家に引き返して警察と救急車を呼んで、残りの家族がワゴンのなかで赤ちゃんの蘇生活動をしてくれた。
このとき曾祖母は90才だったんだけど、曾祖母は定年まで助産師(当時は産婆さん?)をしていたひとで、突然の捨て子(しかも息してない)にパニックも起こせなかった家族を叱り飛ばして手伝わせたって家族が言ってた。犬たちが捨て子に気づいて、老犬が脱走して回収して、たまたま一時帰宅していっしょだった曾祖母が元助産師で、冷静に対応してくれたから助かった命なんだよね。生きているのが奇跡だと思う。
搬送された病院に入院中に、実のオヤが捕まって、ハハオヤが当時17才の遠縁にあたる人物だとわかったり、実のオヤのオヤが双方とも引き取り拒否して夜逃げしたりで、色々あったらしい。
退院を待たず、両親が正式に私を養子に迎えてくれて、大家族と犬たちに囲まれて元気に育った。
曾祖母も老犬も私が物心つく前に亡くなってしまって、家族が繰り返し聞かせてくれたんだ。
秋田犬の寿命は10~13才なんだけど、老犬は15才まで生きてずっと私のそばにいてくれたって。
家でとった幼児期の私の写真には、必ず老犬がいっしょに写ってる。(というか、だいたい上に乗ってる(笑))
私がこの年まで病気知らずなのも、後遺症もなく育ったのもこの老犬が見守ってくれているおかげかな、と思ってる。
いい話ー。犬も偉ければ養子として育ててくれた家族も良い人
犬たちが見つけてくれたとしてもお婆様がいないと助からなかったかもしれないし、そもそもその道を通らなかったね
亡きお婆様の墓前とわんこの墓前に、どうぞお婆様にはおまんじゅうとお線香、わんこにはちゅ~るなと供えてあげてください
いい話を聞かせてくれてありがとう
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