引用元: ・百年の恋も冷めた瞬間 Open 9年目
彼自身のせいではないんだけど、別れるというか関わらないようにするしかなかった
大学生同士のごく平凡なカップルだったと思う
互いに実家に住んでいたので、外でデートして彼の家には行ったことがなかった
でもある日「明日、家族はみんな出かけちゃうから、遊びに来ない?」という彼からのお誘い
それまでは清いwお付き合いだったので「ついに私にもこの日が!」とドキドキワクワクで
前の晩には全身洗い清めて、おしゃれして出かけた
彼は駅まで迎えに来てくれて、一緒に彼の家に向かった
家に入る時、彼が郵便受けを覗いて来ていた郵便物を取り出し
それらをリビングのテーブルの上にポンと放って「じゃ、まずお茶でもいれるね」とキッチンへ行った
私は持ってきたケーキの箱を開けたりしていたんだけど
見るともなく、その郵便物の一番上に乗っていたはがきに目をとめた
印刷されたもので、一瞬、喪中欠礼はがきかと思ったけどそうじゃなくて
一行目に大きく「絶縁状」とあった
今でこそ5ちゃんねるで親や義両親と絶縁するというのは見かけるけれど
そういう言葉には当時なじみがなく、「絶縁て何?誰が誰を?」とそのはがきを読んでしまった
正確な文面は覚えていないのだけど
「○○という人物は××という行ないにより△△組の掟に背いたため絶縁と決定いたしました
以後、△△組は○○との関わりを一切断つので皆様にも通知します △△組本部」
みたいなことだった。
他の組織の皆さんも、こいつを相手にしないでねという内容
ああいう裏社会はコネでつながっているので、縁を切られたら生きていけないらしい
改めてさっき「絶縁状 やくざ」でググってみて、間違いないと確信した
いやそんなことより、普通だと思っていた彼の家に、なんでこんなものが届く?
彼がコーヒーを持ってきたのでさりげなく
「ごめん、このはがきが目に入っちゃって…なんなのかな」と訊いてみた
彼も一瞥して「ああ、たぶん親父のつきあいだろ」と軽く流した
「へえ…お父さんのお仕事って何だっけ」
「いろいろやってるみたいだけどね、まあ自営業」
私はぞっとした
こんな「つきあい」があるお父さんは「普通ではない」と思った
その日はおしゃべりだけして、早々に引き上げて、だんだん距離を置くようにして別れた
あれから何十年もたった
大学の同期会に出ると、彼は出席したことはないんだけど、噂はたまに耳に入る
彼はお父さんの会社を継いで、ずいぶん羽振りがいいらしい
でも彼の友人も、具体的に何をやっている会社かはよく知らないようだ
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