引用元: ・胸がスーッとする武勇伝を聞かせて下さい!(97)
交通事故にあった。見通しの良い田舎道の交差点で、原因は相手の信号無視。
俺の座る運転席に猛スピードで突っ込んできたのは、趣味の悪いスーツを着た
50代くらいのオッサンだった。
幸い右腕と右足を骨折した他は命に別状はなく、額から流血したものの意識も
ハッキリしている。ただパニックになった俺はアコーディオンのようになった
マイカーの中で何をするでもなくただ痙攣を繰り返していた。
オッサン「おいバカ危ねーだろが! ワシの車どうしてくれんじゃ!」
全損した車内でうずくまる俺に罵声を浴びせたオッサンは、元気に車を降りると
誰かに電話し始める。会話の内容から警察ではなく、相手は知人か何かのようだ。
ようやく意識が正常に戻り、芋虫のように車を降りた俺にオッサンが畳み掛ける。
オッサン「てめぇふざけんなよ。とっとと警察呼べ。大した怪我でもねえくせに」
オッサン「ワシの車なんぼする思うとるんじゃ。お前の軽バンが5台は買えるんぞ」
オッサン「弁償や。ワシ誰や思うとんねん。○○会の人間やぞ。おぉ?」
俺は痛みと悔しさで何も言えず、唯一使える左手で携帯電話を取り出すので精いっぱい。
そんな時、遠くからよく知った声が聞こえた。しかも集団で。
B「若!? おいお前ら! 若が事故っとんぞ!」
C「若が!? ちょ、車はよ路肩に回せ! エンジンオイル漏れてんぞ!」
D「急げ急げ! 交通整理こっちでやっとくから! 若ー! 大丈夫かー!?」
聞き覚えのある声にゆるゆる振り向くと、草野球のユニフォームに身を包んだ
浅黒い肌と筋骨隆々とした肉体がトレードマークなグラサン親父の群れがそこにいた。
父親の経営する居酒屋の常連客であり、同時に父親が監督を務める草野球チームの
所属メンバー達である。その日は日曜日。練習試合の為に我が家へ集合する途中、
ちょうど家から職場に向かう最中だった俺の事故現場に鉢合わせしたとのこと。
『若』とは俺がいずれ父親の跡を継ぐ『若大将』だからなのだが、どうも加害者の
オッサンは『若頭』というヤーさん用語だと捉えたらしい。明らかに動揺し始めた。
A「さっきの電話、警察と救急車ですよね? 時間かかるようなこと言うてました?」
オッサン「あ……いやその……これから呼ぶんで……」
B「は? ほなさっき誰と電話しとってん」
オッサン「いや……その、会社に遅れるって伝えようと……」
C「阿呆か自分! 先に救急車ちゃうんかい! 見てみぃ重傷なん解るやろが!」
D「もしもし警察ですか? 人身事故です。ええ、救急車も1台お願いします」
E「若、話せるか? ゆっくりで良いから深呼吸せぇ。吸ってー、吐いてー」
大工。農家。板前。漁師。自動車整備士に床屋、左官。常連客たちは全員が腕一本で
のし上がり、会社や店舗を切り回すまでに至った歴戦の戦士たち。
世間からは底辺職と罵られる彼らだが、俺の目には勇者のパーティにしか見えなかった。
対して強面の男たちに囲まれるオッサンはあまりにも醜く、惨めだった。
最後にちらりとオッサンを見ると、煌びやかなスーツを失禁で濡らし、鼻水を垂らし
ながら座り込んでいるところだった。
後で解った事だが、オッサンはヤクザなどではなく、ただの小さな土建屋の社長だった
とのこと。
常連客らの強固な地域ネットワークによって会社ごと叩き潰され、今では刑務所から
俺の治療費と車の弁償代を月賦で払い続けている。
普段は仕事とエロ話と酒が大好きで抜け毛と鬼嫁に悩まされる野球バカの集まりだが、
この時ばかりは人脈の有難さを痛感した。
あまりスーッとする武勇伝じゃないかな。それと長くてごめんよ。
乙。
十分スッとした。勇者たちにサービスせなあかんね。
お体お大事に。
俺も思った
骨折くらいで刑務所入るんだ
車の運転は気を付けねば
刑務所に入る事より、人を傷つけないよう気を付けて運転して下さい
本気で思ってんの?
うそだよね?まさかそんな。
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