引用元: ・胸がスーッとする武勇イ云を聞かせて下さい!(34)
当選を確認し、動揺してカタカタ震えながら会社に子供でも分かるようなウソをついて
欠勤届を出しその必要も無いのに新幹線に飛び乗り東京・みずほ本店へ向かう。
その間、宝くじを入れたカバンを不自然なくらい固く抱きしめ、はたから見れば
まるで爆弾魔。周囲の視線も極度の緊張で気づかず15分が過ぎる。
そのうち「万が一盗られてもいいように3枚(1等・前後賞)をバラバラにして
おこう」と思いつき、やおらトイレに駆け込み前賞はカバンに。
後賞はコン◯ームに詰めて口の中に。一等は靴の中に分散させようとして
あやうく当たりくじを新幹線のトイレに落としそうになり寿命が縮む。
周囲が全て武装スリに見える中、ようやくみずほ本店へ。口の中から現れる
コンドームに包まれた唾液まみれの当たりクジにさすがの窓口のおねえさんも
ひきつった笑顔を浮かべているが、極度の緊張のせいで目に入らない。
とりあえず全額決済性預金に入れて今後を考える予定だったが、
行員の押しに負け定期や投信に分散させてしまい、帰りの新幹線のトイレで
自分のふがいなさと理由無く押し寄せるペイオフの恐怖に低くうめく。
実家に戻り、とりあえず両親には報告しておこうと事情を話すと
親父はいきなり電話を取り「寿司!特上!」の一言!おかんは携帯で
親戚中に電話をかけ、特に本家の土地と山を相続したことを鼻にかけ
いつも親族会議で大きな顔をしている折り合いの悪い長兄にここぞとばかりに
自慢!嫌味の嵐!おたくのお子さん何してるって言いましたっけ?公務員?
いいわねぇお堅いお子さんで。うちの子は3億ですのよ3億と誇らしげ。
ふと見ると親父は特上寿司を飢えたゴリラのようにむさぼりながら
知り合いの大工に電話で自宅の新築プランについて話している。その電話でも、
7秒に一回は3億という単語が入っている。
その凄惨な光景に目の前が真っ白になり、気がつけば特上寿司を握り締め、
ネタの値段の高い順に両親に投げつけている。自分が何を言っているのか分からない。
求愛する南米のオウムのような叫びを上げ大トロ、アワビ、ウニの順に
親父の境目のなくなったひたいに投げつける。そして定期や投信の証書や印鑑を
その場で焼き捨て、灰に脱糞し、夜の街に駆け出していた。
…流れ流れて名も無い田舎のさびれた温泉街、四十路前の元ダンサーのフィリピン人の
内縁の夫として、場末のバーのバーテンとして立つ日々が続く。
毎日ダメオットダメオトコと罵られる日々。仕事が終わり、裏口で野良猫に残飯をやりながら、
雪空を見てこうつぶやく。
「いつか夢 いつか正夢 宝くじ… 夢見るうちが 華かもしれない…ウッ…エグッエグッ…」
全部孤児院に寄付してれば
武勇伝と言えない事もなかったやもしれん。
家族が当たっても言わないでほしい
言うと絶対面倒くさいから、言わない。
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