※本シリーズの物語は近日中に執筆開始予定です。公開まで今しばらくお待ちいただけましたら幸いです。
ある放課後、有璃子(ゆりこ)は一匹の狐に出会った。
狐は人のかたちをしていて、白い面をかぶり、夕暮れの参道を音もなく駆けていった。
なぜか惹かれるように、その背を追いかける。気がつけば鳥居の奥、見知らぬ道。
風が止み、空が歪み、足元が崩れて――
少女は、世界の裏側に堕ちていく。
気づけばそこは、どこか懐かしく、けれど異様な風景だった。
しゃべる紙人形、空を泳ぐあやかしの布、名前をねじ曲げて呼んでくる奇妙な者たち。
すべてが「有璃朱(ありす)」と彼女を呼ぶ。
けれど彼女は、有璃子(ゆりこ)という名の、小さなただの小学生だったはずだ。
名前を呼ばれるたびに、胸の奥がずきりと痛む。
“本当の自分”は、どこへいってしまったのか――
この国では、名を失う者は二度と戻れないということを、
彼女はまだ知らない。
けれど、誰かの残した一冊の古びた図鑑と、
あの日、目を合わせた狐面の少年だけが、
この不条理な異界で、かすかな光を灯していた。
これは、ひとりの少女が
“自分の名前”を守り抜くために剣を握り、
妖怪たちの夜を駆ける物語。
どうぞ、扉の向こうでお待ちください。
物語が、あなたの影に忍び寄るその日まで。